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中屋彦十郎薬舗による「尾山のくすり大将」第9号 2002年6月3日
俳人松尾芭蕉は金沢に立ち寄った
俳人松尾芭蕉は金沢に立ち寄った
今回は、俳人芭蕉が金沢に立ち寄ったお話を申し上げます。
元禄2年(1689年)芭蕉は弟子曾良をともなって奥州路を経て、北陸路に入り、旧暦7月15日(現在の暦では8月末)越中から倶利伽羅峠を越え金沢へやってきました。
すでに秋風が立ち始める夏の終わりの頃でした。
金沢では俳人の仲間である「一笑」を訪ねるのが目的であったといわれています。
しかし、一笑は既に前年に亡くなっており悲しみのなかで墓参りをしたのでした。
23日には宮竹屋に立ち寄り客となりました。
宮竹屋は薬種商で当代は伊右衛門といい俳号を小春(しょうしゅん)と称していました。
伊右衛門は感激し最大級のもてなしで応じました。
「寝るまでの名残りなりけり秋のかや」(小春)
芭蕉は当時、既に著名な人であり小春の喜びは例えようのないものでした。
この家を出立に際し、小春に対する言葉は温かく、かつ厳しいものでした。
宮竹屋は当時、既に大店として片町に居を構え幅広く商いをし金沢市民に知られていました。
芭蕉は小春に富めるものの生活が、ともすれば俳の精神と離反することをさとしたといわれています。
芭蕉は宮竹屋の近くの犀川に立ち寄り、西の空を仰いで「あかあかと日はつれなくも秋の風」(芭蕉)という句を詠んでいます。
芭蕉はこれから先、さらに漂白の旅を続けていくのでした。
宮竹屋薬舗は現在すでにありませんが、伊右衛門が最大級のもてなしをしたであろう客間である茶室は「小春庵」(こはるあん)として金沢の料亭「つば甚」に移築されています。
私はかってここでお茶をいただいたことがありますが、寂寥の感を深くしたのを覚えています。
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